『ジョディ』
ジョディは、夕暮れが好きだった。
夕日の深紅。
なめらかに変わる空の青から茜色。
地上の風景のモノトーン。
決して見飽きることのない、自然の神秘。そのすべてが好きだった。
子供の頃、夕方になると家の屋上や丘の上でよく絵を描いたものだった。MIST勤めの
今でも、夕方には署の屋上で一休みがてら夕景色を眺めていた。
でも、彼女は、他にも好きな理由があるような気がしていた。
数ヶ月前、MISTのハンターがNMCと戦闘中に負傷した。ハンターの命に別状はなかった
ものの、その戦闘の詳細な報告を聞いた彼女は、背後からNMCに襲われたという部分を
重要視し、ただちにアーマーの調査に乗り出した。負傷のハンターが装備していたアー
マーは、彼女が開発したものだった。
彼女は回収済みアーマーや設計図を調査し、アーマーに搭載されていた動体探知機が、
ごくまれにNMCを探知出来なくなる不具合があることを突き止めた。ハンターが攻撃さ
れたのは、動体探知機がNMCの探知に失敗したために違いない、と彼女は確信した。急
いで調査報告書にまとめて上級捜査官に提出し、さらに対策案も考え、同じタイプの動
体探知機を搭載した全アーマーの改修計画を立て、開発者としてすべきことをすべて、
彼女は一人で実行した。
緊急を要した仕事を一通り終え、ふと振り返る時間が出来ると、彼女は深い自責の念に
かられた。NMCハンターの命を守るための装備が、自分のミス一つで彼を命の危機にさ
らしてしまった。私は少数精鋭のプロであるMISTの一員。その一員として、あってはな
らないことだ、と。明るく愛嬌があり皆から親しまれる性格の反面、彼女は自分自身に
は厳しかった。
彼女は療養中のハンターのもとへ見舞いに行った。
「本当にごめんなさい。私が未熟だったばかりに…」
「いいって、もう気にすんな。現に俺はこの通り無事だし。ジョディならもっといいも
のに出来るさ。俺は信じてるぜ」
「…ありがとう。私、もっと・・・」
あれから今。今夕も、彼女は屋上にいる。
夕日を隠す雲間から、光の帯が何本も、空と地上へ伸びている。
(すごい… 今日のは美しいだけじゃない、なんて気高くて神々しい…)
彼女は、なんとなくながらも、夕暮れが好きな別の理由に気がつく。
夕日にとっては、その日のお仕事を終えるときの、自身へのねぎらいを表しているので
はないかしら? 今日もいっぱい輝いてきたから、その成果を今の一瞬に集めよう、と。
曇りや雨で輝きが届かない日もある。でも、夕方には晴れてもっと美しく見えることも
ある。それは、今まで雲の向こうで、うんとがんばって輝き続けた、何よりの証し。
そう、がんばること。自分を信じて。
「・・・私、もっとがんばるからね!」
あのときのせりふが、再びよみがえる。
療養明けのハンターも、たまに休憩に屋上にやってくる。背中の傷はもうすっかり癒え
ていた。
彼はジョディを見かけ、彼女のそばにやってきた。彼は、改修型アーマーの調子は良好
だと伝え、親指を立ててウィンクする。彼女ははにかみながらも親指を立てて微笑み返す。
二人はしばらく夕景色を眺める。
雲間から夕日の光が差し込み、二人の顔を茜色に照らす。
ふと、彼女は思い立ち、夕日を見ながら彼に聞いてみた。
「ねえ…」
「ん?」
「夕暮れって、好き?」
「まあ、な」
「きれいだから?」
「ん〜、それもあるけど… 夕日を見てるとなあ、なんか元気が出てくるんだ。明日も
ガンバレよ!って、励まされるようでね」
「ふ〜ん、…そっか」
「…そう思わん?」
彼女は、満面の笑みで彼の方を向いた。
「…うん、そうよね!」
ジョディには、もうひとつ、理由が増えた。
−完−